東京地方裁判所 昭和56年(ワ)5722号 判決
一1 請求の原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。
2 右当事者間に争いのない甲第一号証(本件実用新案公報)によれば、本件考案の構成要件は、請求の原因3において原告の主張するとおりと認められる。
二 被告が過去において被告各製品を製造販売していたこと及び被告各製品の構成が別紙第一目録(被告第一製品)及び第二目録(被告第二製品)三(一)記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。
三 そこで、本件考案と被告各製品とを対比することとし、まず、本件考案の構成要件(一)の「遊技庭の適宜位置」に適宜形状の窪所を刻設する」の意味について検討する。
前掲甲第一号証(本件実用新案公報)によれば、本件明細書中の考案の詳細な説明の欄には、遊技盤は、「遊技盤前板2とこの遊技盤前板2に重ね合わせた背面板3」から構成され、「遊技盤前板2の遊技庭2´には球誘導レール6、風車7、障碍釘8、入賞孔9等の公知の表具が装着されると共に」、「その上部に背面板3に達する略丸皿ビス形状の窪所10が、更にその下部に長形(「長方形」の誤記)の同じく背面板10(「3」の誤記)に達する窪所11が刻設されている。」(同公報一頁左欄二一行ないし二九行)と記載されていることが認められ、また、原本の存在及び成立に争いのない乙第一ないし第三号証によれば、本件考案の出願当初の明細書では、考案の詳細な説明の欄において「遊技盤(1)面に弾発された遊技球の多く飛来する盤面、第一図の例(2)、(5)の如き箇所を切截して裏面より他の背面板(8)を接着して窪処(2)を設け」とし、また、実用新案登録請求の範囲において「遊技盤面上に適当な箇所に窪処(2)を設け、該窪処(2)の下部断面を傾斜面にし、障碍釘を植立せるベニヤ板又は金属板、合成樹脂板の背面板(8)を設け、又窪処(5)内に入賞孔(6)を設けてなるパチンコ遊技機における遊技盤。」と記載されていたところ、担当審査官から「登録請求の範囲において、「窪処(2)と「背面板(8)」の相対的な位置が明確でない。」との拒絶理由が発せられたこと、その後において、出願人が提出した全文訂正明細書すなわち本件明細書の考案の詳細な説明の欄において「遊技盤1は遊技盤前板2とこの遊技盤前板に重ね合わせた背面板3とからなる」こととして、「この遊技盤1の前板2の遊技庭2´に背面板3に達する窪所10および11を刻設する」ことに補正され、その実用新案登録請求の範囲においても「パチンコの遊技盤の遊技庭に窪所を刻設する」ことと補正していること、出願当初明細書及び本件明細書を通じて、窪所の構成については、遊技盤自体にその表面より一段低い凹所を刻みつけて設けるというもののみが示され、それ以外の構成については何ら言及も示唆もないことが認められる。
以上のような本件明細書の記載及び本件考案の出願の経過に照らして考えれば、本件考案における「遊技盤の遊技庭に窪所を刻設する」とは、遊技盤自体にその表面より一段と低くなつた凹所を設けたものに限られると解される。
原告は、本件考案の窪所について、何らかの方法により窪所が形成されれば足り、その形成方法まで限定するものではなく、遊技庭に穿設された「透孔」に別体のユニツトが嵌め込まれて形成された凹所も本件考案の窪所に含まれる旨主張する。しかしながら、前掲甲第一号証、いずれも成立に争いのない乙第五ないし第八号証、第一一号証を総合すれば、パチンコ遊技機の遊技盤の遊技庭に透孔を穿設し、その透孔に別体のユニツトを嵌合して凹所を設け、その凹所内に遊技球の落下及び回転の速度及び方向を変化させるための装設物、すなわち、本件考案にいう表具を取り付けるという技術は、本件考案の登録出願前において既に公知であつたことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はないから、原告の右主張は、本件考案の登録出願前において公知の技術まで本件考案の技術的範囲に含めて解釈するものであつて到底採りえない。なお、原告は、乙第八号証の遊技機における「受駒2」及び乙第一一号証の遊技機における「廻転胴1」はその一部が遊戯盤面より突出しているので「窪所内部」に設けられているものではないと主張しているが、前掲甲第一号証によると、本件考案における表具である「障碍釘10´」もその先端が盤面より突出して設けられていることが認められるので原告の主張は失当である。
ところで、被告各製品においては、遊技盤1上の遊技庭2のほぼ中央部に円透孔3を穿設し、円透孔3に球通過径路変化ユニツトを嵌合している。したがつて、被告各製品は、本件考案の構成要件(一)の「遊技庭の適宜位置に適宜形状の窪所を刻設する」とする構成を欠くことが明らかである。
以上のとおり、被告各製品は本件考案の技術的範囲に属しないものというべきである。
四 よつて、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、いずれもこれを棄却することとする。
〔編註〕本件考案の構成要件は左のとおりである。
(一) 遊技庭の適宜位置に適宜形状の窪所を刻設すること
(二) 右窪所の内部に障碍釘、風車、入賞孔等の表具を装設すること
(三) パチンコ遊技機の遊技盤であること